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青いガーネットの正体

 推理小説にはいろいろな宝石がでてきます。我らが名探偵シャーロック・ホームズの物語にも
いくつもの宝石がでてきます。黒真珠、マザリンの宝石、23個のエメラルド、カーバンクル・・・など。
 ホームズにとって宝石とは、「犯罪をひき起こすもとになるのも当然だ。」
「悪魔が好んで餌に使う」「美しいおもちゃ」「人を絞首台や牢獄へ送る役目を果たしている」
ものなのです。
この「美しいおもちゃ」の一つカーバンクルについて書きます。

さてカーバンクルという宝石を知っていますか。
「カーバンクルとは、頂点が丸くカットされたガーネットの事である。」
という事で、実はガーネットの事です。
ガーネットなら知っているという方も多いのではないでしょうか。

「ガーネット GARNET

 古くから魔除けの石とされ、ヨーロッパ十字軍の兵士たちがお護りとして大切にしていました。
またギリシャ・ローマ時代には、王権の象徴として王冠などの宝飾品にも使われていました。
一般にガーネットというと暗赤色の宝石をイメージしますが、実際には単一の宝石名ではなく
7種類の鉱物のグループ名で、赤・緑・黄・橙色といった色のガーネットもあります。
硬度は7−7.5です。 」

この宝石が出てくる作品は邦題:青いガーネット*1(原題:The Adventure of the Blue Carbuncle
1892年発表)と言ってずばり宝石の名前が題名についています。
事件は宝石と鵞鳥がからんだ内容です。
詳しくは、「青いガーネット」をよんでください。
この作品のなかで「青いガーネット」は「そら豆よりは少し小さいが、その燐然たる光は、
うす暗い掌のくぼみの中で、電光のように見えた」
「二つとない品で、本当の値は誰にもわからないのだが、1千ポンドという賞金は、
市価の二十分の一にも満たない」というものです。

さて、この事件の途中でいくつか興味深い言動がみられます。
1.「この宝石は発見されてからまだ二十年にも満たない。南中国のアモイ川の岸で発見
   されたものだが、色がルビーのような赤色でなく青い事を除くと、あらゆる点で
   ガーネットの特徴をそなえていることで有名なのだ」
2.「この四十グレインの炭素の結晶のために」
3.「丸々と肥った鵞鳥」が「のみ込んだので、さわってみますと宝石が食堂から餌袋へ
   下がって行くのがわかりました。」

これらの言動は、専門家によると間違っているとの事です。

この言動を検証していきます。
1.「中国でガーネットが発見されたことはない。
   アモイ川の岸で発見されたことがないのは、いうまでもない。
   なぜならアモイ川という川は、今も昔も中国にはなかった。
   アモイは中国南部の都市であるが、
   そこを流れている川はアモイ川ではなく九龍江なのである。」
   (「青い謎」 S・タッパー・ビジロー判事)

2.宝石の重さの単位はカラットです。これは昔も今もイギリスだけでなく他の国でも同じです。
  当時のイギリスでは1カラットは3.163グレインでした。
  すなわちこの宝石は12.65カラットです。
  しかし大きさは「そら豆よりは少し小さい」という。
  
  炭素の結晶とはダイヤモンドのことであってガーネットのことではない。
  フィリップ・カッソン氏の「青い宝石の真の正体」によれば、
  カーバンクルの科学的組成は「マグネシウム、カルシウム、酸化鉄、クロームといった
  物質の化合物」である。

3.「丸々と肥った鵞鳥」が「そら豆よりは少し小さい」宝石をのみ込んで分かるのでしょうか

ホームズの知識が間違っているまたは、ワトスンの記述違いによるものなのでしょうか。
それとも・・・。

もしホームズが正しい知識をもってこれらのことを言っているとすれば、
ホームズは、青いガーネットなどという普通の鉱物をさがしていたのではなく
謎の鉱物をさがしていたという事になります。
(今日まで青色のガーネットは、発見されていません。)
しかも自分は、そのことを知っていながらワトスンには、内緒にしており、
時々うっかりと真実を語ってしまっていると思われます。
そしてその言動をボズウェル氏たるワトスン博士が正確に記述しているのです。

では、この上記のような性質を持つ鉱物とは、一体なんなのでしょう。
現在の所、このような鉱物は、発見されていません。
未知の鉱物です。まるで地球上の物質ではないみたいです。
さて「未知」という言葉で片付けてしまっては、ここで終わってしまいます。。
もっとヒントをさがしてみましょう。青いガーネット以外にこの鉱物について書かれていないか
さがしてみます。
エンサイクロペディア・シャーロックホームズ及びシャーロック・ホームズ百科事典などで
カーバンクルまたは宝石及び鉱物について検索してみます。

結果は、ほかの作品には書かれているところは無いようです。
では次に当時の資料からさぐってみましょう。
この事件がおこったのは、ベアリング=グールドによると1887年12月27日(火)と
なっています。
その年の前後で何が起こったのか調べてみます。

1887年 4月 「ライゲイトの地主」事件
      5月 「ボヘミアの醜聞」事件
      6月 「唇の捩れた男」事件
      9月 「五つのオレンジの種」事件
     10月 「花婿失踪事件」事件
         「赤毛組合」事件
     11月 「瀕死の探偵」事件
     12月 「青いガーネット」事件

1888年 1月 「恐怖の谷」事件
      4月 「黄色い顔」事件
      9月 「ギリシャ語通訳」事件
         「四つの署名」事件

いろいろな事件があります。但し、どれも未知の鉱物と関係があるとは思えません。
他に情報が無いのか、もうこの未知の鉱物とは一体なんだったのか分からないのか。
この様な鉱物は、現在発見されていないので推測はできてもこれが真実だ
というような事は言えません。
しかし未知な物を未知だからと言ってそのままにしても何の進歩もありません。

この鉱物については、ここで一時調査を終了します。
もしまたこの未知の鉱物について私が触れる事があれば
その時は、きっと何かしら答えが出ていることでしょう。



※1・・・・
 「青いガーネット」という作品は、「青いルビー」という邦題で出版されている場合があります。
 「青いルビー」=「サファイヤ」になるから間違いだと言われていますが、
 原題名を見てもらえば分かる通り、ルビーではなくカーバンクルとかかれています。
 本文中にもルビーとは一言もかかれていません。
  これは、誤訳です。
  おそらく訳者がカーバンクルを分かりやすい様にガーネットと訳したところを
 別の訳者がガーネット=暗赤色の宝石という事でもっと一般的なルビーに置き換えて
 しまったのではないかと思われます。







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